『太郎(たろう)』 知ってびっくり。赤ちゃんの名前が急に変更になった理由。

投稿者:はなこ

長男が生まれた当時アフリカのある国に住んでいました。
夫はイギリス人です。

この妊娠の前に流産の経験が5回あります。
どれも4週から12週の間に起こりました。
流産の悲しい経験から、せめて安定期になるまでは名前を決めたり出産に向けての準備はしないことにしよう。
性別も知りたくないね、と夫婦で話していました。

それが赤ちゃんは晴れて安定期まで元気に成長してくれたのです。
担当の産婦人科の先生に聞くと、赤ちゃんは男の子。
早速名前を考え出すことにしました。

夫婦共、短くて覚えやすい名前、日本語でも英語でもしっくりくる名前にしたい、ということで名前の選定を開始。
短い名前が良い、というのは夫の強い希望でした。
名前が長いと、例えば「としゆき」君という名前の子は上の字だけをとって「としくん」などと呼ばれがちですが、それが出来ない名前が良いというのです。
日本語でも英語でも、というのは半分日本人半分イギリス人だから。

そのことを頭に私も一生懸命考えてみましたが、どうもいい名前が浮かんできません。
一方、想像力や創造性に欠ける私と反対に、夫はアイデアに富んだ人です。
ペットの名前だっていつもピッタリの名前を付けてくれました。
今回はペットとは訳が違いますが、私はひそかに夫の提案を待っていました。

予想通り夫は、「カイ」なんてどう?とある日持ち掛けてきました。
海をカイと読む名前です。
セーリングが趣味の海が大好きな夫らしい提案です。
ちなみに日本語の「海」を「カイ」と読むことは知っていました。

「カイ」にはもう一つの思い入れがあるとのこと。
長男は夫と私が旅行に行ったときに授かった子です。
結婚記念日に旅行に出ることになり、「トランス・カイ」という地域に行きました。
「カイ」はその地名の一部でもあります。

聞いた感じもすっきりと男の子らしくて、私も大賛成。
この子は「カイ」君なんだ。名前を呼べる日を楽しみに思うようになりました。

ところが臨月になって夫が突然言い出すのです。
「ネットで調べたら、すごくいい名前があった。カイより全然いい名前!もう絶対これにする。」
少々興奮気味にまくし立てるので、その名前を聞くと「タロウ」だそう。
私は「えっ」とひるんでしまいました。

これまで数か月「カイ」に慣れ親しもうと、口ずさんできた名前がいきなりタロウになってしまうことに違和感も感じました。
何の思い入れもなく、ネットで適当に拾ってきた名前を大切な赤ちゃんにつけてしまうことにも抵抗がありました。
また、昔「タロウ」という犬を飼っていたこともなんとなく引っかかります。
「タロウ」は純粋な日本語の名前でもあり、英語でも日本語でも、の条件に合ってもいません。

それを夫に伝えても、一向に「タロウ」を譲りません。
両親に報告した時も、「古い名前選んだねー。なんだかうちの(犬の)タロウを思い出しちゃうね」と拍子抜けな感じです。
両親のこの言葉を伝えても、夫はガンとして譲りませんでした。

仕方ない。夫がここまで主張するならと、「タロウ」に賛成をしてあげました。
聞きなれてくるとこれも男の子らしいし、口にしやすい名前に感じてきます。
一般的な名前なので、漢字も簡単に決めました、
最も一般的であろう「太郎」でいっか、という程度で決定してしまいました。

この太郎君はもう16歳になりますが、「タロウ」という名前がピッタリの子になっています。
あんなに反対したものの、私も「太郎」君という名前がもちろん大好きです。
本人も自分の名前を気に入ってくれているので、結果オーライでした。

後で聞いた話です。
急に「カイ」が取り下げになった理由。

夫の友人達と食事に出かけた時に、そのグループ内の女性に聞いたのです。
彼女は学生時代から夫のことを知っている夫婦共通の友人です。
私の良き友達にもなっていて、もちろん赤ちゃんの名前に変更があった時も、私の不満を聞いてもらいました。

「あの時は言いたくなかったけど、もう生まれちゃったから言うね。
カイ、って彼の昔の彼女の名前なの。
しかも彼のことをこっぴどく振った子。
あの事急に思い出したんだと思う。」

笑いながら言われました。
私はそんなことを知ったくらいでは傷つきませんが、夫の気遣いだったのでしょう。

元カノの名前を自分の子につけようとしたことに気づいて、しかも妻である私に言えなくて、焦っている夫の姿を想像すると、いまでもおかしくなります。
長男が生まれて数年後に知ることになった、命名にまつわる話でした。

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